発達障害への理解を深める【2】ー自閉スペクトラム症(ASD)とは
発達障害と向き合う子どもたちが将来自立して幸せに生活できるように
癇癪(かんしゃく)、パニック、他害、自己否定、偏食・・・子どもたちのいわゆる「問題行動」は、発達障害による特性に起因しているのもあるのですが、周囲の人間の無理解や誤った対応によって、引き起こされる、あるいは、行動が強化されていく、というケースが多くあるのです。逆を言えば、周囲の人間が発達障害に対する正しい知識を持ち、個々に合った適切な配慮をしてあげることで、発達障害があるとしても、悩みを抱えたり、生きづらさを感じたりすることなく、日常生活を送ることが出来る、ということです。
とどのつまり、子どもと関わる周囲の人間の正しい理解が大事、ということで、「発達障害への理解を深める」というテーマでシリーズ化して書いています。
発達障害と向き合う親が、発達障害に関する正しい知識を知り、『将来子どもが自立し幸せに生活出来るようになる』ことを目指してサポートする、というポジティブなマインドを前提にした視点から、私なりに情報を集めております。
発達障害および各症状の定義については、厚生労働省作成のホームページから引用させていただき、掲載しています。リンクはページの一番下に記載します。
自閉スペクトラム症とは
これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年のアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5の発表以降、自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現するようになりました。自閉スペクトラム症は多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、人口の1%に及んでいるとも言われています。自閉スペクトラム症の人々の状態像は非常に多様であり、信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解して、個々のニーズに合った適切な療育・教育的支援につなげていく必要があります。
自閉スペクトラム症の診断については、DSM-5に記述されており、下記などの条件が満たされたときに診断されます。
- 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的欠陥があること
- 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が2つ以上あること(情動的、反復的な身体の運動や会話、固執やこだわり、極めて限定され執着する興味、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さなど)
- 発達早期から1,2の症状が存在していること
- 発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されていること
- これらの障害が、知的能力障害(知的障害)や全般性発達遅延ではうまく説明されないこと
さらに、知的障害の有無、言語障害の有無を明らかにし、ADHD(注意欠如・多動症)との併存の有無を確認することが重要です。DSM-IVでは認められなかった自閉スペクトラム症とADHDの併存が、DSM-5では認められています。また、他の遺伝学的疾患(レット症候群、脆弱X症候群、ダウン症候群など)の症状の一部として自閉スペクトラム症が現れることがあります。
1と2の症状の程度は様々であり、いろいろな併存症も見られることから、小児神経科・児童精神科・小児科医師による医学的評価は非常に重要です。
自閉スペクトラム症の症状
自閉スペクトラム症には大きな2つの特徴があります。
【人とのコミュニケーションにおいて苦手や困難がある】
重症度は様々ですが、言葉の遅れ、反響言語(オウム返し)、会話が成り立たない、格式張った字義通りの言語など、言語やコミュニケーションの障害が認められることが多くなっています。
乳児期早期から、視線を合わせることや身振りをまねすることなど、他者と関心を共有することができず、社会性の低下もみられます。学童期以降も友だちができにくかったり、友だちがいても関わりがしばしば一方的だったりと、感情を共有することが苦手で、対人的相互関係を築くのが難しくなります。相手の心情に配慮した言い回しが出来ず、ストレートな物言いになってしまうことがあるため、空気が読めない人、冷たい人、などという印象を持たれがちです。それを人から直接言われてしまうことがあると、傷つき、自己肯定感が低下してしまうので、少なくとも常に周囲にいる人は、自閉スペクトラム症の特徴のひとつであることを理解し、一緒に改善策を見つけてあげるのが望ましいです。
【こだわりの強さや、感覚の偏り(感覚過敏・鈍麻)がある】
一つの興味・事柄に関心が限定され、こだわりが強く、感覚過敏あるいは鈍麻など感覚の問題も認められることが特徴的です。感覚に偏りがあるがために、強い刺激を受けるとストレスに繋がってしまいます。それは本人の努力で変わるものではありません。洗濯した洋服の柔軟剤のにおいが嫌、裏起毛の長ズボンはチクチクして履けない、いつも暑くて真冬でも半袖半ズボン、人が大勢いて常にざわざわと話し声が聞こえるところは刺激が強すぎてストレスになる、しょうゆがそのまま飲めるくらい好み、など、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、圧覚、味覚で、その子がどのような感覚を持っているのか、注意深く観察して対応しましょう。決して先入観を持たない(お子さんが自分と同じように見えている、聞こえているとは限らない)で、観察してあげるのが大事です。
自閉スペクトラム症の依存症
様々な併存症が知られていますが、約70%以上の人が1つの精神疾患を、40%以上の人が2つ以上の精神疾患をもっているといわれています。特に知的能力障害(知的障害)が多く、その他、ADHD(注意欠如・多動症)、発達性協調運動症(DCD)、不安症、抑うつ障害、学習障害(限局性学習症、LD)がしばしば併存します。
また医学的併存疾患としては、てんかん、睡眠障害、便秘を合併しやすいことが知られています。てんかんの併存は、知的障害が重い人ほど多く認められます。
自閉スペクトラム症の原因
自閉スペクトラム症の原因はまだ特定されていませんが、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる、生まれつきの脳の機能障害が原因と考えられています。胎内環境や周産期のトラブル(妊娠中の喫煙、ビタミンやミネラルなどの栄養素の不足、農薬等環境化学物質の影響、出産の高齢化、不妊治療など)も、関係している可能性があると言われていますが、100%解明されたわけではありません。かつては「親の愛情不足」と言われていた時期もありましたが、この説は現在は否定されています。親の育て方が原因ではありません。
自閉スペクトラム症の発生頻度
近年、自閉スペクトラム症の人は約100人に1人いると報告されています。性別では男性に多く、女性の約4倍の発生頻度です。女性では知的障害を伴うことが多い傾向ですが、知的障害や言語の遅れを伴わない女性では、社会的困難の現れが目立たず、過少評価されている可能性もあります。
自閉スペクトラム症の治療
現代の医学では自閉スペクトラム症の根本的な原因を治療することはまだ不可能ですが、彼らは独特の仕方で物事を学んでいくので、個々の発達ペースに沿った療育・教育的な対応が必要となります。癇癪や多動・こだわりなど、個別の症状は薬によって軽減する場合があります。信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な支援につなげていく必要があります。乳幼児期から始まる家庭療育・学校教育そして就労支援へと、ライフステージを通じたサポートが、生活を安定したものにすると考えられています。
参考サイト 厚生労働省|知ることから始めようみんなのメンタルヘルス総合サイト
参考サイト 発達障害ナビポータル